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  DQの周辺  

1 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:08:43 ID:DxYCeezC
DQ辺りのスレ

2 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:09:23 ID:OXWPixHs
うんこすれ

3 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:09:27 ID:MCL41qVb
2辺りをゲット

4 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:09:57 ID:DxYCeezC
なかなか死なない


暗い岬の洞窟の更に奥深く、地下2階の階段を上がると見えて来たのは研磨された美しい岩の壁だった。
勇者は初めて塔に入った。彼女がキョロキョロと見回しているのはナジミの塔の地下一階。
赤い塔は、アリアハン大陸内海に浮ぶ孤島にあった。晴れた日はアリアハンの家屋からも望めたものだ。
その赤い階段をもう慣れた様子で上へ上へと勇者は上って行く。
先頭を行く武闘家は、若い勇者と戦士を引っ張る、三人パーティーの中では比較的旅慣れた壮夫である。
どこかはんなりとした大男で、冒険初頭は二人の若者を何気なくしかししっかりと連れて歩いた。
若い戦士の方は、これも大男で勇者に恋している。

ナジミの塔の最上階。一人の老人が勇者を待っていた。
待ち切れなかったのか、彼女がまだ階段を上り切らない内に老人は話し掛けて来る。
「よくぞ来た」
最上階の部屋は洒落ていて明るい。この老人の気質を表している様だった。
「あなたがこの塔に現われる夢を見た。さぁ、夢の通りこれを渡そう」
老人は赤茶けた小さな鍵を勇者に渡した。盗賊バコタから彼が奪った鍵。
勇者はその鍵を見詰めながら受け取り、老人に笑顔を見せる。
勇者の感慨深かげな瞳を見て老人は感じたままを問う。
「盗賊は嫌か」
「…。でも盗賊の行いが私達の助けになる事も多くありそうですね」
「そうだな。夢でもあなたはそんな事を言っていた」
勇者は老人と少し話をした。
勇者はアリアハン城牢獄に閉じ込められていたバコタも相当の戦士と思ったが、この老人はそのずっと上を行く手練れと感じた。
初めて、この老人を見た瞬間から解っていた。これ程の強者が塔で一人切りで、
(あたしを待っていたの?)
勇者がそう思ったのは、老人が適当に話を切り上げ
「さぁ、儂は夢の続きを見るとしよう」
とベッドのシーツに包ってしまった時だ。その続きの夢にも女勇者はきっと登場するのだろう。
女勇者の未来を気にして、楽しんで、老人はこの塔で一人夢の続きを見るのだろうから。

5 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:12:18 ID:DxYCeezC
「どんな」
勇者の低い嗄れ声は聞く。夢に何の魅力があるのか気になった。
「どんな夢を見たんです。私はただ鍵を貰っただけ?」
その勇者の言葉に老人はベッドから少し起きて、目を開き言った。
「それは…」
夢よりもずっとエロティックな女の低い声。こちらの下半身を押し上げジワリと体に響く。
「この鍵が欲しければ…と、あなたに色々と強要したのだ」
女勇者は老人の言葉にほんの少し動揺、昂揚している。
その彼女の様子に、隆起した胸に、老人は魂をもぎ取られた様になって喉から言葉が溢れ出す。
「もうそんな夢は見ない。でも見たら、ごめん」
勇者は不機嫌な顔を老人に見せ、その後少しだけ妖しく笑った。
勇者の仲間、男二人は遠く離れてその男女を見ていた。

老人と武闘家と戦士、男三人は簡単な出会いをして別れる。
勇者は盗賊の鍵で扉を開け、老人の部屋を出る。
戦士は、勇者と老人が二人切りで話していて面白くなかった旨を武闘家に言う。
勇者への好意結構だが、戦士は武闘家にも喧嘩を売っている。
武闘家が勇者と二人で話す事など何度もあったから。


ナジミの塔の老人の夢。その続きで勇者はゾーマに会う。
勇者は16才で旅を始め、18才で彼を見た。
ゾーマは勇者の青春である。
その上この女勇者は…ゾーマとの愛と絆があった。
老人は勇者に思った。人の男のエゴかとも思いながら、人間の男を愛してその男の側に居てくれと。

勇者の仲間の武闘家も、この勇者とゾーマの深い関係を感じていた。
武闘家は勇者と共に大魔王(ゾーマ)の所まで行こうと思うようになっていた。
ゾーマが勇者に触れる前に、この拳で倒す。


6 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:14:05 ID:DxYCeezC



勇者に取って二個所目の塔、彼女の足取りは迅速だった。
彼女はカンダタに怒っていたのだ。盗賊カンダタ。見た事はないけれど。
この塔、シャンパーニの塔にカンダタが居た。
塔の5階から階下を覗いていたカンダタ子分Cが勇者達を見付ける。
我々では勝てないかも知れない。そばに居た兄貴分のAとBに黒装束を着るようCは言った。
「なんだ、なんだ。誰か来たのか」
美貌の子分Aがのん気にCの元に来て、彼と一緒に階下を覗いた。
その瞬間、Aは素早く戦闘の用意を始める。
Bもパワーナックルをはめていつでも戦える形となった。
カンダタはその頃風呂に入って喉を振るっていた。おもちゃを泳がせていた。
4階に子分AとCが下り、Bは5階で待機する。
歌い上げるカンダタ顔を上げると、虫の死骸が天井から落ちて来て口に入った。カンダタげーごー吐いた。
4階で子分Cと武闘家が出会う。
知将のCは慌てながらもその才知で武闘家を翻弄しようと試みたが、その大男はヌルヌルと話をかわし上手く行かない。
「もういいだろ」
武闘家の美しく豪奢な声がその場の空気を変えた。
そして軽そうに体を跳ねさせ戦闘態勢に入り、Cを見ながら少し口の端を上げる。
その笑顔は妖しいのだけれど爽やかで、子分Cは(殺される)と思った。
Cは逃げた。
Aも戦士を見た瞬間、一時退却とばかりに走っていた。
AとCは合流し、鎧を着る為走る。
戦士と武闘家が子分達をゆっくり追って来る。そのスローモーな動きの恐ろしさ。
AとCは5階に上がり、小部屋に入って鎧を着た。
狭い部屋の扉の向こうに武闘家と戦士の気配がする。
子分のAとC。二人は自分達が“蜘蛛の糸に絡んだ獲物”の様に思えた。

7 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:19:03 ID:DxYCeezC
「関係ぇねぇ」
冷静になったAは言う。相手が強かろうと恐かろうと戦う。殺されてはもう盗みは出来ないのだ。
(俺の盗みの邪魔をするな)
Aは扉を蹴破って戦士に躍り掛かった。
戦士の鋼の剣は思わぬ所から伸びて来て、Aの鋼の剣を叩き割り、粉砕する。
続く剣戟は鮮烈。Aの肩当てを切り落とした。
戦士の攻撃は痛みよりも重さをAの体に残す。
(強い、ロマリア王よりも)
このカンダタ軍団4名は、金の冠を盗みにロマリア城に入った事があった。
軍団は王と対峙した。一対一なら、カンダタよりロマリア王の方が強かったのだ。
この戦士はその王をも超えるか。
「このガキ!」
Aは低い声で吼えて戦士に掴みかかろうとした。戦士20才、Aは24才。
実際Aは年上だが、戦士より若く見える。Aは瑞々しい美貌、猛進、全く引かない。
盗みの最中に殺されても本望だが、休日女っ気の無いむさい塔の中で襲われて死ぬのは無念だ。
掴み掛かって来るAの腕を跳ね除けると戦士は動きを止めた。
止まった戦士の視線の先にあるのは、赤い絨毯と絨毯の上の二人。
炭団の様な黒くて丸い男(子分B)と、皮の腰巻の勇者である。
腰巻の女は低い声で問う。
「カンダタの盗賊団か。金の冠は」
「ここにある」
「では王の元へ」
その勇者の威厳に満ちた恐ろしい声を聞くと、Bは両拳につけたパワーナックルを叩き合わせて鳴らした。
勇者の事はBに任せて、子分Aは武闘家の目に向けてナイフを走らせる。
武闘家に短刀は掠りもしない。武闘家と言う人種に接近戦を挑んではいけない。
この武闘家今は鉄の爪を携帯しているが、本当は武器を装備するならパワーナックルが一番相応しい。
鉄の爪、黄金の爪などは爪の分敵から遠いので、この男が武器を持つなら超接近戦のパワーナックルが一番良い。
その燻し銀の色の、敵に近い小さな武器がこの男に似合った。
(あの武器はいくらかな。どこで売ってるんだろう)
Bの武器を見ながら勇者は、武闘家の為にいつか欲しいと思っていた。

8 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:20:55 ID:DxYCeezC
勇者との戦いでBは不利となっていた。
武闘家に近い素早さを持ち、戦士に近い能力で武器を扱う。この女の種類はなんだ?
勇者!?
(これが!)

女は腰巻の腰をねじり、Bを蹴り飛ばす。Bは飛んだ。
「アリアハンの勇者なのか」
倒れながらそう聞くBは勇者の名を呼んだ。蹴った勇者はそうだと言う。
「お頭の、当てが外れたか」
フンと笑うとBは立ち上がり、低い声で続けた。
「カンダタはな、お前はここに来ないと思ったんだよ」
「なぜ」
「お前はそんな女じゃねぇと思ったのさ奴は。お前カンダタと会ってるんだぞ」
ガザーブで、素手で熊を倒した英雄の事を女勇者に語っていた男が居た。
“実は素手ではなく鉄の爪を使って熊を倒したのだ”と言う真相にその男は面白くなさそうだった。
「頭の言う勇者の様子を聞いて、俺達も勇者は来ないと思ったが油断した」
Bは太った体の割りに身軽で、勇者を6階へと誘う。
複雑な形の長い階段を上り、勇者と戦士がBを追った。

5階に残されたAとCと武闘家。
何か、勇者一行を不審に思ったAは武闘家への攻撃を休めてみた。
すると武闘家は自由になってそこいらをノシノシと歩き始める。
武闘家は5階の窓から外へ体を乗り出すと上方を見上げる。6階の外壁に何か見える。6階から5階を通らず直接4階へ行ける経路を発見した。
子分のAとCは根本的な事を理解する。この武闘家、こちらが危害を加えなければ自分からは戦いをしない。
その時Cの上に戦士が、Aの上に勇者が降って来た。
小さな少年Cは巨漢に潰され、立ち姿で勇者に当ったAは思いも寄らず彼女のクッションとなった。
Aは勇者の腰を押す。皮越しに伝わる柔らかい感触と、甘い香りを認めた。
(女だ!)
驚いてAは勇者を覗き込んだ。勇者も瞼甲の中のAの目を見る。

9 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:25:07 ID:DxYCeezC
勇者は自分の祖父よりも美しい男を今まで見た事がなかったので、世の中は広い物だと思った。
Aは遠目からしか彼女を見ていなかったから勇者は男だと思っていた。
戦士と勇者はどうやら6階で落とし穴に誘われ、ここ5階に落ちて来たらしい。
「時間稼ぎだな」
武闘家は穴の開いた天井を、6階に居るだろうBを見上げて言った。
しかし勇者は何か考え事をしていて動きが鈍い。子分Aもその場に固まっていた。

Bは6階の浴室へ走った。
「カンダタ!」
お頭の影を見たBは叫んだが、カンダタはスッポンポンに靴だけを履いてウロウロしていた。
「パンツがねぇなぁ」
彼は色々と探している。Bは様々な事態を容認する男だが、今は動転して足をスベらせてしまった。
「なぁ、パンツ」
「これを着ろ」
とBは覆面マントをカンダタに渡した。
「パンツなしで着れない」
「いいから来いよ」
とBはカンダタを引っ張って、6階から4階へ飛び降りようとする。
その途中カンダタはパンツを見付けた。飛び降りながら着けた。
「なんだ」
4階に降り立ったカンダタはBに事態を尋ねた。
「勇者が来たぞ」
「アリアハンの?」
「だな。金の冠を返せって」
「だから冠持って逃げるようって? …勇者はそんなに強いか」
「まず勝てねぇな。取られて良いのか冠」
「あいつらはどうした?」
カンダタはただ、子分のAとCの事を心配した。

勇者は(カンダタはあの人か?…)と思い当たる男が頭の中にいたが、思案を止めてカンダタを探し始めた。

10 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:27:06 ID:DxYCeezC
子分AとCは勇者達3人を追った。そしてその5人は到達した6階からバラバラと降下して4階のカンダタを見付ける。
風呂場なら風呂場、6階なら6階、4階なら4階と…現れたらその場の空気を一瞬全て持って行ってしまうのがカンダタである。
勇者の父オルテガ並の、至高の存在感である。
精悍さでは他の者の追随を許さないし、均整の取れた逞しい体躯と顔立ち、そして切ない「セクシー」を持っていた。
まさに勇者が気にしていたあの男だった。逞しい腕に斧を持っている。ただその身は今パンツと靴である。
(あぁ、あいつら生きてたよ…)
カンダタは子分二人を見てホッとした。やっぱり勇者は思っていた通りの女だった。
「よう。一対一でやらないか?」
カンダタが勇者を誘い戦闘となった。

勇者の仲間と子分達は静かにカンダタと勇者の決闘を見物。
「あんた強いな」
Aは武闘家にボソリと言った。
武闘家もAの事を“気迫がある”と言った。
俺もこの男の様な気迫が…あったかなと、懐かしい事を武闘家は思い出していた。
Aはこの武闘家が優れた男に感じられて言う。
「あんたら世界でも救うのかい。あんまり…女に酷い事させんなよな」
Aは勇者を心配している。
「旅の好きも嫌いもあいつが決めてる。俺はあの女は世界が得た物だろうと思って」
武闘家の美声をAはぼんやりと聞いていた。
「あの人がつくる世界なら、俺も見てみたいなぁ…」
Aはカンダタ子分として「だけ」には留まらない男らしい。女勇者に惹かれているのだ。
「いい女なんだから。守れよ」
「守るだけが能ではない」
その戦士の冷たい声に、Aは負けなかった。
「絶対守ってやるくらい言えないのかよ。俺は手を貸したいし、守りたい」
戦士が「勇者を絶対守る」など、こんな所で喋れるものか。とは言えAも真剣そのものだった。
それにしてもAは敵に対しても喋る男だ。この探求心と積極性でなかなか良い出会いを引っ張って来る男である。

11 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:32:20 ID:DxYCeezC

カンダタの斧が、勇者のチェーンクロスに絡み取られ飛ばされてしまった。
しかし徒手空拳こそがカンダタの武器。彼は武闘家だった。
カンダタの拳が勇者の顔面を思い切り打った。その時カンダタは勇者自身のダメージより彼女の仲間の様子を見た。
あらゆる面からこの女の戦闘能力を計る。命懸けの戦いでもカンダタはこうした危なかしい事をする。
勇者の仲間二人は全く動かない。逆に自分の仲間のAがうろたえていた。
カンダタは老若男女差別無しだが、手加減もなしである。
カンダタ、勇者の首を掴んで今度は床に頭を叩き付けたが、実は…戦闘能力を計られていたのはカンダタの方だった。
カンダタの間合いは複雑だったので、勇者は様子を見ていたらしい。床の埃が付いただけで平気そうな顔をした勇者がカンダタに向って歩いて来る。
カンダタは立って堂々と彼女を迎えた。彼の厚い胸と彼女の丸い額が触れそうな距離。
「どうして来た」
カンダタは勇者の事を軽蔑した様な眼差しで、見下して言った。
「金の冠を」
「それがどう、お前に関わりがある」
カンダタは勇者の顔に自らの顔を寄せ、形の良い眉をギュウと上げて形相を作った。
「王に媚びを売ろうって言うのか、貸しを作りたいのか。
お前に関係ないだろ、胡散臭い勇者じゃ!」
「王が戦う暇がないと言うから私が」
「だから…」

12 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:34:51 ID:DxYCeezC
「友達なの。王様は傷付いた。誰かに奪還を任せる事で…王が傷付くなら、その役はこの私が」
(友達)
と、カンダタは一瞬思考停止した。(王様が好きなのか)
その時子分のBが叫ぶ。
「お頭!! 離れろ!!」
シャンパーニの塔を覆うほどの大型の黒雲が瞬時に現れ、喉を鳴らせてカンダタに迫る。
一歩でも良い、直撃を避ける為、
「動けカンダタ!!」
そのBの声と、雲に気付いて上を見上げるカンダタの視線と、勇者の低いつぶやきは同時だった。
「ライデイン」
小さな光の糸がパリッと音を立ててカンダタに纏わり付いたと思うと、空が重さを持って落ちて来た。
勇者の目の前、カンダタは仰け反って雷撃を浴びる。水と言う導体で出来ている人の体。
さらに風呂上がりの蒸された体の中で電撃は縦横無尽に走って行く。
カンダタは叫んだ様だったが、破壊される塔の音といかずちの轟音に掻き消された。
塔は、電撃を受けて最上階から一階まで斜めに抉(えぐ)り取られている。
勇者の電光は今小さな閃きとなったが、まだ複数の竜の様にカンダタの体に絡みついて突き刺さる。
勇者のレベルはこの時36。カンダタ軍団勝てはしない。
削り取られた塔の中でモンスター達が「ギピー、ギピー」と勇者を恐れていた。
カンダタは半壊した塔の6階から、地上へ向って体が崩れる。
その時カンダタは勇者の仲間二人を見た。まるで事件の様なこの勇者の魔法力を見ても男達は眉一つ動かしてはいなかった。
(こいつら、大魔王倒すんじゃないか)
抉られ内部を露わにされた塔の5階、4階、3階と…カンダタは落ちて行った。
勇者は始め、初めてこの呪文を生き物に炸裂させた慄きを少し持ったが、自分の力とこの呪文の一切から目を反らさなかった。
まだカンダタへの攻撃を止めない自分の雷光と、自分が壊した塔と、落ちて行くカンダタをじっと見続けた。

カンダタは5階の床に頭を打ち、4階の壁が脇に刺さり、2階の梁に靴を片方引っかけてしまった後、1階のフロアに転がった。
子分Bは勇者と拳を交えながら、彼女の隠された魔法力も脅威に感じていたのだ。

13 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:37:41 ID:DxYCeezC

「おきて」
カンダタを突つきながら、勇者は目を閉じているその男に呼びかけた。
カンダタは目を開け、女勇者の名を呼んだ後、焦げ臭い上半身を起こした。
「俺、お前の旅を見る」
場合に寄っちゃ助けるとも言う。
「もう悪い事しないから許してくれよ。な。な」
冗談の様な声でカンダタは言う。
後にカンダタと子分Aとで喧嘩になる。「盗みをもうしないってのはどう言う事だ」と。
「返して」
「うん」
返事をするとカンダタはパンツの中から大きな冠を取り出した。
勇者は「いらない」とも言えず金の冠を受け取った。
「簡単に渡すね」
「盗む事で冠が新しくなる気がしたからさ」
「?」
勇者はカンダタの小声がはっきりと聞き取れなかった。
「この冠は「一度盗む」だけで十分だったんだよ。やる。売ればGになったんだけどな」
カンダタは笑うとAの操縦する馬車に乗って去って行った。
(じゃあね)
勇者は心の中で彼に別れを告げた。


14 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:40:57 ID:DxYCeezC



カンダタ盗賊団は、“盗む事”に対する考え方が四人それぞれ違って見えた。
考えの違う人間達を纏め上げているカンダタの統率力と愛情を勇者は見た。
勇者一行は…パーティーの中一人だけ魔法が使え、一人だけ女である女勇者が特別だ。
女勇者が画いたしたたかなパーティー編成に見えるが実態は、勇者がこの男二人に惚れ込んだから今のパーティーがある。
武闘家と戦士は勇者より強かったし、パーティーは皆で、三人で作って行ったものだった。
勇者は自分がハッとする様な考え方を持った賊に、いつかどこかで出会えるのではないかと思ってみた。
勇者はフと、ナジミの塔の老人の事を思い出す。あのおじいさんは元盗賊だったのかも知れないと。
そうだとしたら…「盗賊は嫌か」なんて言わせてしまってごめんなさいと、勇者はひっそり思った。

カンダタは馬車に揺られながらロマリア王を思い出して、胸を熱くした。
あのガッシリとした大きな体の剣士。間合いに入ると王は大きな剣を振るって、カンダタから行動の自由を奪うのだ。
(あぁ)
カンダタは心の中で少し叫んだ。あの男が権力に囲われていると思うと切なくなる。
その王にいたずらしたくなった。金の冠は絶対に手に入れたいと思い、心からの盗みは成功した。
(頑張っちゃったよ。俺)
カンダタは冠を通して王に自分を憶えさせた。冠は新しい意味を持ち、新しく生まれ変わったのだ。
ロマリア王は自分と全く違う気ままな盗賊を憶えた。大帝の迫力を持つ黒装束の男を見た。
金の冠は一度カンダタの物になった。その間カンダタはロマリア王の関心をずっと手に入れていた。王の執着を得ていた。
そしてカンダタは先程シャンパーニの塔でも心臓が止まる程の恋を得た。
その男が6階から降って来た瞬間に、
(お前に惚れた!)
あの武闘家である。カンダタは嬉しくて上の空だった。シャンパーニ塔では素手で戦うあの強い武闘家。
男カンダタ18才の青春である。

15 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:42:53 ID:DxYCeezC

カンダタ子分Aはルビーを盗みたいと言い出した。
「ボス、そこをなんとか」
カンダタ18才に取って、24才のAは(昔二人が所属していた盗賊団では)元兄貴分だった。口論になるとボスのカンダタが折れてしまう事もある。

Aはまた窃盗を犯す。女王の治める小さな里に忍び込んだ。
女王は人間が来た事と、勇者が取り戻してくれた夢見るルビーが奪われた事でパニックとなっていた。
「ちょっと貸してよ。すぐ返すから」
エルフの女王は勇者の事が好きだった。女王に取ってあの女勇者は“母親としての見本”なのである。
「俺も好きだよ」
貴方もあの勇者が好きなのね…と感心した事と、絶世の美男の毒気に当てられた女王は隙を作った。その間にAは逃げた。

Aとカンダタは白昼堂々ロマリアに素顔を晒して闊歩した。
劇団の男優かと思わせる男二人の華やかさである。Aの美貌、カンダタの男振りは騒がれた。
こんな目立つ風采、目立つ魅力の男達を盗賊団と思う者は居なかった。
Aは、旅人の服も、腰巻も、女王のドレスも似合う勇者に狂喜乱舞。
「あんな良い女が居るか、居るものか?」
遠目から道行くドレスの勇者を見かけただけで、Aは燃え上がっている。
(まったく惚れるって言うのはどうしようもねぇなぁ…)
カンダタは呆れて格闘場に行き、大臣の装いのロマリア王にドキドキしていた。

Aは数々の新しい警備を越えて王室に辿り着く。
彼が覗き見たのは、睦まじそうなロマリア王とアリアハンの勇者だった。
ロマリア王は娘は居るが妻を亡くし独身なので、恋愛はかなり自由な様子。
「ねぇ」
「駄目」
しかし男女の秘めた声は何と言う事もない、勇者が「女王に暇を」と言うのを王が許していないだけだった。
王と勇者はもっと一緒に居たい。だけどお互い友達で居たい。王はロマリアを守る王。
だから一緒に旅に出る事も、勇者が王妃になる事もなく、このイベントの様な女王の時間を出来るだけ長引かせる事に執着している。王と勇者のあがきである。

16 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:45:18 ID:DxYCeezC
王と勇者は見た通り友達の様で、Aは…Hで可愛い女勇者が惜しく思えた。
(相応しい場所に帰してあげたいものだ)
Aはこれからどうするか考えた。その時王が城外を目指して王室を後にし、勇者も別室に移ろうと廻廊を歩き始めていた。
Aは勇者を追った。相手の動きを封じる夢見るルビーを持って、勇者と二人切りになるまで。

「勇者の心を盗んで世界征服なんてどうだい」
昔、Aは目を閉じながら言った事があった。
「確かに勇者は金になる」
カンダタの冷静な声をAは嫌がる。
「そうじゃなくてさー。夢がないなー」
更に冷静なBは、
「人一人に何が出来るんだよ」
と勇者の事を言った後、勇者は以外と女だったりして。と言う。
「わぁ。どんな女だろう」
とAは華やぎ、「まーた女か」とカンダタは眉を歪めた。

Aはロマリア王室からカンダタの元に帰って来た。
Aは勇者を自分達の仲間にしようとカンダタに頼む。カンダタはきっぱり断った。勇者の旅を奪う気はない。
「お前が抜ければ良いだろ」
カンダタは小さい声でAに言った。次にはっきりと言う。
「勇者の所へお前が行けよ」
いやだ。とAは言う。カンダタと勇者が居るから良いのだと言う。
「あんたがあの人を扱うなら良いんだよ。それに俺が普通にここ(盗賊団)から抜けたとしても勇者さんの所へは行かないな」
「あの女に従う気はないって事か」
「そうかもな。ボスはこれからどうするんだ」
ここでカンダタが盗みを止めると言えば、この男はこの場で踵を返してどこかへ行ってしまう。
(でもこいつはまだ俺に期待している)
カンダタはその事を知っていた。


17 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:48:26 ID:DxYCeezC
「メダルを集めようと思う」
こんな小さなメダルが希代の財宝に姿を変える。
「あの勇者達に色々送ろうと思うんだ」
「へぇ、あんたが勇者って奴をそんなに尊敬してるとは知らなかったな」
こうしてAはカンダタの元に留まった。カンダタにまだ期待をしているし、あの女勇者の事も好きだから贈り物が出来て丁度良かった。



盗みをしていた頃の緊張感は無いが、カンダタ盗賊団の旅は続いた。
気の置けない仲間とのんびり世界中を冒険する。この時期は男四人の休暇だったのだろう。
とうとうカンダタは勇者以外は拒むと言う雪原の聖域にまで足を踏み入れる。
レイアムランドに聳(そび)える鈍い黄金の塔。天を付く高さ、雪を頂く不死鳥の祠。
「見えた」
カンダタが呟くと、その高い塔は子分3人の眼前にも突然現われた。
「何だ、俺にも見えたぞ」
「親方勇者なの?」
「ええ?」
4人はびっくりし通し。
男達の休暇に終止符が打たれたのは、ここレイアムランドでの事だった。

祠の長い階段を上がると、最上階に大きな卵があった。カンダタは卵にペチペチ触る。
どこからか女が二人現われた。
「わたし達…「わたし達…」
「……」「…」「……」「…」
双子らしい妖精の巫女が、一斉に喋るので何だか変である。4人は彼女達の言葉が終るまで黙っていた。
Aは悔しそうに指を弾き、女達を品評する。
「くう! もうちょい色気があればなぁ」
カンダタは女にチヤホヤするAに(ん、もう)と焦れた。
「あなたオルテガに似てるのね」
巫女がカンダタに言うとカンダタは表情を険しくする。
「オルテガ。アリアハンのオルテガがここに来たのかい」

18 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:55:17 ID:DxYCeezC
「ええ」
男カンダタが詰め寄って来たので巫女はドキリとした。



その男は仲間のサイモンが着ていた鎧を着て、レイアムランドに現われた。
不死鳥の事は信じなかったと言う。

「不死鳥が居るなら、何故サイモンは死んだ。あれは大魔王を倒す勇者だった。
加護が無かったとは言わせない」
寒い祠の中でそこだけが別世界の様だったと言う。オルテガの存在は氷よりも寒さよりも鋭かった。
「俺は不死身を信じない。俺より若い勇者が死んだ」
「不死鳥も一度は死ぬんです」
「復活とは一度死なないと起らない物でしょう」
巫女達の言葉に、刃の様な眼差しの男は返す。
「今そんな悠長な事を言っている場合か。あいつが死んだら俺が行くしかないだろう」
「だったらラーミアを復活させて。あなた不死鳥に守られて旅を続けるべきよ」
「すまない。そんな時間は無いのだよ」
「それにその方は生きているかも知れないわ。勇者サイモン」
オルテガは巫女を振返った。
「その方の魂が、どこかで燃えているかも知れません」
オルテガはその言葉を大事そうに胸に納めると卵に触れた。卵はオルテガを喜んで、彼の手を温めて来る。
(許せ。俺は最短距離で行く)
ラーミアに心の中で話し掛けるとオルテガは雪原の中に戻り、北へ行ったと言う。



カンダタはその話を“死んだのか?”と思える程の静けさで聞いていた。
「サイモンの…魂があるとしたらどこに」
やっと口をきいたカンダタは巫女に尋ねる。
「そこはさびしい祠の牢獄…」
「死んだ後も戦っているのか。勇者を待って居るのか」

19 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:58:04 ID:DxYCeezC
カンダタはそう言うと泣き出した。嬉しい。そして切なかった。
「友達に突然襲われて、強い抵抗も出来ないまま殺されたようなんです」
そう言う巫女にカンダタは尋ねる。
「サイモンはサマンオサの勇者だった。友達とはサマンオサ王?」
「いいえ。モンスターよ」
友達はボストロールから、サマンオサ王まで。サイモンは愛情深い人だった。彼に愛された妻達も、彼を愛した。
勇者オルテガは自分の娘の活躍やサイモンの復活を期待出来ないらしい。
ただ女の戦闘を徹底的に嫌うし、「サイモンの次は俺だ」とプライドを燃やしている。
勇者サイモンと勇者オルテガの名を聞くとカンダタはまさに電撃に打たれた様になって始動した。
「俺もアレフガルドへ行くぞ。オルテガはその後どうやってアレフガルドへ行った」
「火山の火口に入ったのです。激しい火傷を負って、死にそうになったのよ…」
と巫女は涙を見せた。
「この祠に招いてくれたのも何かの縁だな。俺の事も死なない様に守ってくれよ」
「あぶないわ」
巫女は一人泣きながらカンダタを怒った。もう一人は困った様に泣いた。
さすがにカンダタも(こりゃ可愛い)と思って女達に笑顔を見せる。
オルテガとカンダタは二人してこの妖精達の心を得た様だった。オルテガ、カンダタは人間外の女にこそ慕われる様である。選ばれた英雄の二人。
レイアムランドから出立する時、吹雪の中「あの巫女達なら仲間にしてもいいなぁ」とカンダタは言う。Aは久々の女の連れに喜ぶが、カンダタはAの喜びに釘を刺す。
「でも巫女達はあの女勇者を待ってるんだろうからな」
女勇者がラーミアを復活させるだろう。あの女勇者はロトなのである。期待してもしすぎる事はない。


運の良いカンダタ軍団は怪我無くアレフガルドへ到着。巫女達もホッとした。
カンダタは益々力が漲って見えたが、アレフガルドで僧侶になってしまった。
だからAは仲間達の元から去って行く。
Aが居なくなるのでカンダタは怒った。
(なんだよバカ)
自分に対し“性愛の親しみ”をカンダタが持っていたなどAは知らなかった。ただのアホに見えた。

20 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:00:34 ID:DxYCeezC
Aはアレフガルドで一人旅の人となる。別れたけれどカンダタの事は心底嫌になった訳ではない。立派だったし可愛い所もあるボスだった。
Aは少し寂しくなったが、そんな事は忘れて女勇者の為に小さなメダル収集に燃えた。精力的に実行する。
バラモスと親交を深めたAは、大魔王の城に入り込む事が出来た。
そこでAは大魔王ゾーマに出会う。

「俺は本当に大魔王ゾーマに会った。理想の高いあの大王を俺は見て来た」
「俺を虚言癖と言うのは構わない。だがあの王の存在と高みは嘘じゃない」
ゾーマの城を出たAはリムルダールで熱弁する。打倒ゾーマと思う者達にもAは言って回った。
「あの魔王さんに世界征服されても諦めるんだな。どうせお前等には勝てないよ。いいか良く聞け」
ここまで来るとさすがにAは捕まって、リムルダールの牢屋に入れられてしまった。
Aは「一つ所に居るのもなかなか良いぞ」と思い始めた。あの女勇者に会えるかも知れないし。



Aがリムダールの牢獄に居る頃、勇者はアレフガルドに到着し世話になった事のある海賊と再会していた。
その海賊は女海賊団に居た商人で、女統領と共にアレフガルドに来ていたらしい。
「銅の剣が7Gはないよなぁ」と言っていた40絡みの男である。
「今の旅が終ったら俺と旅しようぜ」
彼はそう言って18才の女勇者を誘う。
イエローオーブの町が出来て行く時、その“発展”と“牢に入った商人の釈放”の両方を助けてくれた男である。
「ありがとう。本当に」
「いや、あれは俺も得る所があった」
「どう言う事」
「俺も何か起こそうと思ってね」
この商人、金は貯まりに貯まっている。
「俺も40半ばよ。ここで一勝負して、元の金をどこまで増やせるかやってみたいんだ」
「おもしろそう」
「じゃあ、俺と来るか?」
アレフガルドに着いた時にはもう、勇者は戦士と結婚していた。
「あなた統領と喧嘩したの? あたしと旅するとか、貯めたお金使っちゃうとか変だね」


21 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:03:21 ID:DxYCeezC
「昔お前さんは俺を誘った。今度は俺が」
気が良くて、瞳のとても優しい男だ。でも時に刺激がある。
「そう言えばお前さん余りお頭と関わらなくなったな。義理堅いね」
勇者には、彼を女海賊の元から引き抜こうとした負い目がある。彼の言う“俺を誘った”とはこの事だ。
「いきなり取っちゃうなんて褒められた様な事じゃないでしょ。
でも今は遠慮しない。今あなたの力を借りたい事があるの」
「どんな事?」
「一つだけ」
願いは一つ。光の鎧を見つけ出して欲しい。
「お前さんが着るのかい?」
「うん。ずっと大事にします」
「よし行こう」

ルビスの塔へは海賊商人と女勇者、戦士と女賢者の4人パーティーで行く。
塔の中に光の鎧は有った。
しかし鎧に辿り着くまでの道は回転床に阻まれている。
細い道に敷き詰められた回転床から足を踏み外すと階下へ真っ逆さま。細い綱を渡り歩くアープの塔よりも余程危険である。
商人を阻んだのはしかし、回転床だけではなかった。
このウソの様な良い男が噂の元大盗賊かと思うと、その話の旨さが商人は気持ち悪い。
黒髪の傑僧は元盗賊の機敏な足で回転床の道の途中まで行き、既に待っていた。
「おーい。俺と勝負するか?」
カンダタが道の途中から商人を誘う。
「おい、カンダタはあんたらの仲間じゃないのか?」
商人が勇者に聞くと、
「仲間じゃないんだよ。鎧取られたら何されるか解らない」
「大勇者のオルテガに届けようかなー!?」
とカンダタは叫んでいる。
「あぁ、父さんにあげるの? じゃあ…」
との勇者の言葉を商人が止めた。そしてカンダタの元へ歩む。
カンダタは若い。20才。商人は44才、回転床を渡って見せた。

22 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:07:18 ID:DxYCeezC
海賊歴30余年の動きにスキはない。あっと言う間にカンダタと同じ床の上に商人は立った。
「へへ、ウソだよ。大魔王の城へ俺は行かない。オルテガを信じてる。心配もしねぇで待ってるよ。
大勇者(オルテガ)の元へはあいつ(女勇者)に届けさせな」
「なんだ、端から勝負に意味は無かったのか」
「いいや。何か賭けよう。あんた負けたら俺に付けよ」
商人はカンダタから正式に誘われた。だが商人は断る。
「お前に付くよりはあの女勇者の方が良い」
カンダタ、ギャフン。
この商人が何故今、統領の女海賊と不仲なのか。
それは女海賊がカンダタのカリスマに参ってしまったからだ。統領を張る気迫を彼女は無くしてしまった。
女海賊は統領を半分引退した状態で、カンダタの下に付いたと言って良い。
更に言うと、彼女の部下も殆どカンダタの下に収まってしまった。
カンダタの統率力とカリスマは唯一無二。女勇者もカンダタのこれには遠く及ばない。
商人はしかしまだ女海賊に期待している所があった。
如何ともし難い今の状況は、この商人に取っては降って湧いた休暇であろう。
この時に女勇者と過したかった。
カンダタに付く位なら一人で居たい。
しかしこの商人も男を欲した事があった。一人だけ。生涯で惹かれた男はただ一人。ベルベッドボイスの艶男、あの武闘家である。
(ミスター…死んじゃった)
女勇者の仲間だった故武闘家。この商人は女勇者の恋敵でもあった。商人と勇者、二人であの人(武闘家)が好きだと告白し合ったものだ。
「あんた、チ○○で物事決めてんじゃねぇのかっっ?」
可愛い性格の商人は、カンダタに半端な推測を言われてしょんぼりした。
「情けない事を言うんじゃねぇ。○○ポとはなんだ、○○ポとは」
「俺よりあいつ(女勇者)の方が良いって!?」
カンダタは激しく動き、商人に足掃いをかけて来た。
「やめろ、下を見ろ!」
下は回転床。下手に滑ると数階下に落ち、堅い床に叩き付けられる。
回転床に足を取られて男二人は転ぶ転ぶ。
「あ〜、こんなつもりじゃなかったんだあぁ」

23 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:10:05 ID:DxYCeezC
そのカンダタの後悔は遅く、カンダタの長い足と商人の短い足が絡んで何度も倒れる。崩れ落ちそうな激しい衝撃に床は堪える。
転び転(まろ)びながら、商人と元盗賊は力を合せて光の鎧まで走った。
「取った!」
商人は瑞々しく叫び、光の鎧を抱く。遠くから見ていた勇者はワァァと喜んだ。
その途端カンダタは転び、光の鎧に激突しながら暗い階下へ真っ逆さまに落ちて行った。
その衝撃で光の鎧の肩当てが外れそうになる。それを咄嗟に防ごうと手を伸ばした商人はバランスを崩し、鎧ごと階下へ落ちて行った。
勇者はびっくりしてワァァと言う。


商人は少々怪我をして戦線離脱する事になる。光の鎧を抱きながら女勇者を待っていた。
その商人の元へカンダタは歩み寄る。
見事なその顔から流血しているが、彼は元気そうに商人に話し掛ける。
「俺なぁ、あの女勇者と寝た事あるんだよ」
商人はびっくりしてカンダタに視線を投げた。
(そんな、俺もしてない事を…)
「良い女でね。なんにも手が付けられなくなったよ。気も漫ろになるし、他の女が忌々しく見えるし」
つまりカンダタは女勇者と触れ合って、強烈に世界を狭くした時期があった。
商人は逆だった。勇者に触れて世界が広がった。他の女の魅力も久々に細かく見るようになった。
俺は逆だ…と商人は言おうとしたのだが、カンダタに手を翳(かざ)され止められた。
「待てよ。今は俺の器が小さい事を言いたいんじゃない。
あいつに問題があるって事で聞きな。実際俺の様な男も居るわけだしな」
男好きのカンダタさえも、一時期はあの女勇者に狂った。
「あいつは強い。女としても、勇者一族の長としても、新しく始まる血脈の祖としてもだ。
魔王になれる程の力だよ。魔王の存在は有ってはならない。阻止しなければならない。
俺はあいつの力を半分に……4分の3にでも良い、抑えて留めたい。
俺に力を貸してくれ」
商人はカンダタに引き込まれる。まるでこの時の為に誂(あつら)えた様な決まりの良い声、表情、容貌。
商人はカンダタの誘いに首を振らない。しかし頷きもしない。
「なぜ俺を。何に使う気だ」
「なり行き次第だがな、その気になりゃ俺は国でもおっ立てようと思うんだよ。その為に必要だよあなたは」

24 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:12:53 ID:DxYCeezC
「国か。出来るのか」
「やるだけやる」
力の強い、面白い男だと商人はカンダタを思った。スケールが最高。
しかし商人は「ふんふん」と頷くと話題を変えた。
「しかしお前は女に関しちゃ器が小さいじゃないか」
「アー、うん。俺男好きだからかな」
「そうかそうか。触るな」
商人は懸命にカンダタから光の鎧を守った。
男が好きとは……この男に掛けた数多い女達の執念と、未練が見えた様だった。
飛び抜けた美人や良い男は嫌な物を背負ってる奴が多いなぁと商人は思う。
良い女と言えば…真っ先に商人は勇者を思い出した。しかしあの女勇者の背に付いてる数々の執念達は何とも楽しそうだ。
あの女勇者の魅力は長く付き合わないと解らなそうだ。

その時女勇者がカンダタと商人の元へ来た。彼女は商人を目指して駆けて来る。
(ハハ、真っ直ぐ走って来る…)
たまに商人は“おれは○○○そのものだ”と思う程、女勇者を求めたい時があるが今はとても温かくて穏やかだ。
「ありがとう」
と勇者は言い、商人を抱いて頬にキスした。
「帰ったら一緒に旅しよう」
と女勇者は笑顔を見せた。勇者はこの商人の前でとても愛らしい。
(普通にその男好きだろ)
とカンダタは思う。そしてこの商人の財力、気の良さと冒険心は、この勇者の生涯のパートナーとして誰よりも相応しく見えた。
「お前男と仲良くして良いの?」
カンダタは勇者をからかう。
「あたし達いつか旅する」
勇者は嬉しそうな顔でカンダタにも言う。
「あんたも来る? たまに」
勇者はカンダタを誘い、「何だ?」とカンダタは楽しそうだ。
「じゃあ、旅で一緒になったら仲良くしよう」
とカンダタは商人にウインクする。商人は目を閉じ、両手で顔を覆って難(ウインク)を逃れた。


25 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:15:47 ID:DxYCeezC



リムルダール牢獄のAは、勇者と再会し死んだ。
Aはゾーマと勇者は結ばれて欲しいと思う。素敵だと思った。
光と光、闇と闇では無ではないか。眩し過ぎて、暗過ぎて前が見えない。
光と闇あってこそ、そこに有る物をこの目に見せてくれる。光と闇こそこの世だと。
牢獄で戦士に介錯され、死の世界へ歩むAの元へゾーマがやって来た。
「お前、死ぬのか」
「そうだろうな。俺は、宝が欲しくて盗賊やってたよ。でも盗賊達は仲間だったし、勇者さんも宝って感じじゃなかった。あんただった」
「俺の宝はあんたさ。ずっと探してた。やっと見つかったんだ」
Aは今のゾーマが最高に思えたが、ゾーマの今後も優しく認めた。
ゾーマは竜王に志しを継がせて、更にその後復活するだろう。ゾーマはずっとロトと共にある死と闇の男。
「勇者さんと二人で、世界を作って行ってくれ。永久にだな」
「待て、お前に取ってあの女勇者はなんだ」
「んー…」
「お前の死は私の物だ。だがお前の魂は、あの女勇者の所へ届けてやろう」
「ありがとう」
Aは泣いてしまった。涙を見せた訳ではないが、泣いたと言って良いのだろう。
「あんた達好きだよ」
女勇者とゾーマの事をAは言った。Aに取ってゾーマは宝、女勇者は自分の魂の帰る場所であった。
さまざまな虚飾を脱ぎ去って訪ねても堂々と愛してくれる、大きな巣であった。無器用なAは生前、その彼女への触れ方が乱暴だったけれど。
ゾーマも彼女に並ぶ器だった。そして悪魔は人の心が好きな物である。ゾーマはAの望む物も理解出来たし、叶えてやりたかった。


ゾーマの城の順路を、Aは勇者に教え込んだ。
王座の後ろに階段がある。
勇者はそれを現地で確認した時「凄い」と盗賊Aを褒めた。死んでしまったAに勇者は優しかった。

26 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:18:02 ID:DxYCeezC
キングヒドラが見えて来るとここからは一本道。
そしてキングヒドラのそばに男が居た。
女勇者は見た。
顔は紫に腫れ上がり、ヒドラの首が巻き付いた為か入れ墨の様な呪いの跡を腕に付けた一人の男。
立派な体格の男は恐ろしい存在感でキングヒドラと女勇者に迫って来る。
その名オルテガ。女勇者はその時息を呑んだのだ。
目も耳も聞こえないオルテガはそれでも戦って……しかし死に際して一番思ったのは娘の事だった。
「世界を救えなかった父を許してくれ」


アレフガルドで、カンダタとオルテガは出会った事がある。一緒に覆面マントでラダトーム城を走った事がある。
「見たか、アリアハンから来たと言う勇者を。覆面マントにパンツ一丁だぜ」
そんな噂をしているラダトームの輩に傑僧カンダタは凄んで、恐れさせた。
その時気まぐれなバルログがいきなりカンダタの前に現れて、カンダタはびっくりしたけれど、
「パンツ一丁」
とバルログが言ったので、パワーナックルをバルログに投げ付けて命中させた。
バルログは「ギャー」と叫んだ後「ボー」とメラゾーマを撃って来た。
カンダタはメラメラ燃える。
カンダタは鼻毛まで燃やしながら思うのだった。
(あの覆面マントにパンツ一丁。俺は一生忘れない)
あの女勇者が力をつけて来てオルテガの力は翳って来ている。
しかしカンダタに取ってはオルテガこそが憧れの戦士、憧れの勇者なのだ。
強い男はなかなか死なない。
そんな男をカンダタは忘れられない。





27 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:21:12 ID:DxYCeezC
勇者はゾーマと対決し、アレフガルドに太陽を取り戻した。
ラダトームで馬上のカンダタが勇者を待っていた。
「乗りな」
ロトの称号を貰った女勇者だが、ラダトーム城での宴もそこそこにカンダタの操る馬に飛び乗り、彼に手綱を任せて駆けて行った。
「お前、ゾーマをちゃんと滅ぼしてないだろう」
「そうなのよ。まだどこかに居る」
「どうするんだよ」
「探すわ」
「ゾーマの人気たるや凄まじい…その、モンスターの残党さん方をだな、俺が預かりましょう」
女勇者には影に隠した一つの目標があった。“カンダタを信じ続ける”事である。
信じたい男だと彼女はずっと思っていた。信じて、これから面白くなりそう。少なくとも千数百年、ロトとカンダタのこの信頼関係は続く。
カンダタはこの女勇者と違ってモンスターに好かれる男だった。
モンスター達は勇者を「ロトちゃんバリーちゃんあるいはママちゃん」と呼び、カンダタを「大王」と呼んだ。

これよりアレフガルドではロト、カンダタ、ラルス一世の時代が幕を開けた。
ロトは姿を現す事は無い。姿を見せないのにラルス王室の権威を揺るがせた。

ラルス王は女勇者ロトを本気で憎んでいた。カンダタはその事に気付く。
ラルス王は「必ず殺したい」程ロトを疎んでいた。
(あんた、ロトだけじゃないか)
カンダタは、王はロトに束縛されていると見た。ロトがまた男を手に入れる。

カンダタはゾーマにもロトにも惹かれなかった希有の人だった。
ロマリア王もラルス王も“勇者に触れない”と思う向こうで、はっきりと彼女に男として好意を寄せたが、カンダタは勇者に一線を引いて冷静だった。

28 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:25:02 ID:DxYCeezC



カンダタ30才がアレフガルドに新大陸を求めて、選び抜かれた仲間と夥(おびただ)しい数のモンスターを連れ出港する事になった。
そして28才の勇者はゾーマとの2度目の対決の場に居た。
勇者は神龍に戦士を焼き殺され、その神龍には勝った。それに続いてのゾーマ戦である。
カンダタの船に、女海賊と共に居た海賊商人はカンダタに言う。
「もし一人で戦っていたら」
と女勇者の事を心配している。
いや、とカンダタは言い、勇者は最強の魔法使い(勇者の祖父、オルテガの父)を連れているぞと。
しかし商人はキメラの翼で船から出た。
そのころ勇者は戦場に一人で居て、ゾーマに左腕を引き千切られていた。
無論カンダタも一時撤収し、今は時間を取ってキメラの翼で戦場へ飛んだ。

豪商53才と、男も盛りの30才カンダタは、戦場に向う途中18才のポポタにばったり出会った。
あの武闘家に似ているポポタに商人とカンダタはときめく。
この三人は全て戦える男だが、ポポタがずば抜けて強い。三人は戦場へ駆けた。
ポポタは初恋が勇者ロトであった。元いたずらっ子は一途で逞しい男になり、生涯でロト一人を愛する事になる。
女勇者ロトの初恋の相手は勇者サイモンだった。彼女は2歳だったけれど、自分が一人の人間である事、女と言う生き物である事を「彼を思う」事によって体で知った。
武闘、魔法、武器、全て操る勇者の様なポポタ。サイモンにも似ているポポタとこれからを生きるのもロトに似合いかも知れない。


29 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:26:20 ID:DxYCeezC

ロトが長剣で戦う相手はゾーマのみ。
傷の無かった勇者の体に、傷を付けるのは唯一ゾーマ。
そして男の言う事を聞く事が多かった女勇者が、自分の意思を伝え抜きたいと強く思った男はゾーマだけ。
ゾーマとロトには二者だけで通ずる言葉があり、この男女だけの世界がある。
武闘家だって、戦士だって、戦いのプロは戦場で死んだ。
女勇者も女剣士らしく戦場で死ぬのが相応しいだろう。
(ちょっと待てよ!)
と心で叫ぶのは商人と元盗賊。勇者に勝る事はないけれど勇者を助ける職業の男達。
女勇者は戦場で死ぬべきかも知れない。しかし今目の前で死にそうな彼女が居れば、
(助けてやるぞ!)
と、男達は駆けて行く。





30 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:29:32 ID:DxYCeezC
「勇者は、血や素質でそう呼ばれるんじゃない。生き方だ」
カンダタはそう思っている。だから勇者の祖父(オルテガの父)だって、勇者と呼ばれて本当は良い筈だ。
でも現実は忌々しい。
子供を抱いて笑っている偉大な女勇者ロト。彼女を守りたい為に数々の子孫の男が死んで行く。
ロトこそが、彼女こそが誇りだからと、守りたいのだと腕を振るう。
ラダトームの勇者、ローレシアの王子、……若い男達が
(なーにやってんだか)
カンダタは思う。
血、女、母……そんなに拘りたいものとは。
竜王と死闘を繰り広げ、三つの大国になるまで権威を伸ばして行くロトの名。これは女勇者ロト本人が望んだ未来ではないかも知れない。
しかし彼女の息子達である。母は中々に一喜一憂して息子達に着いて行くだろう。
大戦争を起して殺し合ったとしても、命は命だ。
皆彼女が産んだもの。





31 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:32:01 ID:DxYCeezC
勇者が産んだばかりの子供をカンダタに見せた事があった。
「よしよし」
カンダタは子を抱き慣れていた。堂に入っていてしっかりと彼は嬰児を抱く。
「可愛いな」
まるで、父と言うより祖父の貫禄である。
「子供は好きだよ」
カンダタは沢山いる弟妹の為にも、盗賊になったと言える。
彼は頑張ったけれど…弟妹が成長し切ると、この大いなる兄、小さな父は孤独になった。
兄が盗賊だったと知る事は弟や妹も嫌だろうから、もう家には帰れない。
勇者はカンダタが仲間や家族を大切する事や、男色嗜好である事ももう知っている。
「あんた、自分で子供産んでみたいと思う?」
「考えられないな。人が体の中で大きくなってく訳だろ」
「そうだよ。中でしゃっくりとかするの」
「ひぇー」
考えられない。カンダタは女ではない。
ただ物心ついた時には父の事が好きだった。
血は繋がっていないかも知れないがそんな事はどうでも良い。元々男親は血脈の確実性ならば圧倒的に低い。
ろくでもなかった幼少の頃、あの父はその時代からカンダタを救い出してくれた。
カンダタは生きようと思う。
彼に取っての最高の宝は世界樹の葉。この葉を様々に加工して、あらゆる用途に使う。
父から与えられた命を、擦り切れるまで。
一つの命を、生きるのだ。




ゾーマとの戦いの後女勇者は死ぬ。その戦場で死んだかどうかは諸説はっきりとしないがとにかく彼女は死ぬ。




32 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:33:54 ID:DxYCeezC


広野を一人行く勇者が、祠に向って全速力で走っている。
祠の結界の中へと彼は滑り込んだ。
この勇者、逞しい立派な肉体だが戦いが好きではないらしい。強いが威嚇と逃走の日々。
勇者を追っていたリカントは、祠の結界を破ろうと咆哮する。
破るのは無理と思えたがリカントは急に勇者に接近し、彼は手を噛まれそうになった。
(何!)
結界が移動したのだ。この結界は“その場所”に張られた物ではなくて、
(人か)
人のオーラが災いを寄せ付けないのだ。この祠の中にいる人間が動けば結界も移動する。
勇者は早速祠の中へ走った。
(さすが三賢者の一人雨雲の地仙。これは相当の仙人がいる)
案の定、年を取り過ぎて肉片が爛れた様な仙人がチョロチョロ動いていた。老いも老いたり。しかし鋭く神々しい眼差しの男。
「雨雲の杖が欲しいなら、ガライの竪琴を持って」
その言葉の途中で勇者は道具袋をゴソゴソと調べた。大きな竪琴が、勇者の大きな背から姿を見せる。
「もう持っていたか! せっかちな人じゃな!」

その昔、ロトに太陽の石を預けられた男と、虹の雫を預けられた男がいた。
「太陽の石を持ってた奴は太ってただろ。
またそっくりなのが生れた。あいつの祖先は儂の幼なじみよ。
あなたはこれから虹の雫の仙人の所に行くだろう。その仙人の祖先とも儂は働いた事があった。
そいつはロトと同郷の僧侶で少年時代にロトに触れた。ロトが初めて契った男だ。
つまり性器に触っておけ。御利益があるぞ」
へぇ…と青年が面白そうにしたので、老人は少しドキッとした。
「若いな。男伊達だね。女房は居るか」
「いいえ」
仙人は祠の中の椅子に勇者を座らせる。自分の長い足を邪魔そうにして座る勇者の、落ち着きに老人は何か見たのか、
「…姉妹がいるか?」
「はい。妹だけ4人」

33 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:40:05 ID:DxYCeezC
勇者は2才の時、嬰児の妹に愛情を憶えた。以来妹4人に取って実に頼れる兄であった。
「俺が小さい頃…世の中は酷かった。妹達はあの光景を憶えてない様で救いです」
この勇者が幼い時に乱世を止めた者は竜王。
「竜王は救世主です。モンスター達を鎮圧し、惨状を終らせた。俺に取っても子供の頃からの英雄です」
「それと戦うのか。ラダトーム王の命令?」
竜王にも失点があった。ドムドーラの大火である。
ドムドーラの長、14代目ユキノフを殺したとか。人間ユキノフを焼いたと言う事で、ラルス16世は竜王討伐の大義名分を得て昂揚した。
大火の真相を確かめるべく、奮って竜王の城に赴いたローラ姫さえ、ラルス王は竜王に攫われた事にしている。
「そう言う経緯で、私は王に呼ばれたラダトームの男です。
それにドムドーラ陥落に竜王が絡んでるのは必至でしょう」
「あなたと同じ立場であるロトの子孫…中でも狂戦士達が言っていた。ラルス王は竜王とロトが潰し合う事を望んでいると。
どうなんだ。それでも王家に逆らわないのか?」
「俺は姫を連れ出して、竜王に会い、帰るだけです」
「相手が王室だろうと自分の強さの証明するだけか。見せる物だけを見せると」
「…それが…」
100年前、天高い世界からロトの血を引く者と言って、勇者達がラダトームに降って来た。
だがモンスターに中々勝てない。しかし仕事はそう悪くないので、強く責められる事もなく勇者達は子孫をこの地に残した。
「それが俺達です」
「微妙だ。ロト」
「その決着の付かない乱世の中、数百年の眠りから醒めて竜王が復活した。
竜王が鎮圧に要した時間はたった数年でした。ロトの子孫は100年掛けても出来なかったのに」
「英雄が出たな」
「ラダトーム王室はもう強い愛憎を向ける相手が竜王一色です。王家に取ってラダトームに住むロトの子孫の事は憎悪の対象に成り得ていないと見えます」
「くやしいとは、思わないかね」
「うーん…」
と勇者は低い声で少し唸った。仙人はこの勇者の内に激しい物が見える。もし、この男がラダトーム王室のローラ姫と結ばれたら…と思うだけでゾクゾクとした。
この地仙は確かに仙人だけれど、人間臭い機微が好き。勇者の声を待っていた。
「しかし竜王を偉大と思えば思う程…自分達ロトの子孫の事が悲観出来なくなる」
「うん」

34 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:43:15 ID:DxYCeezC
「仙人様御存知なんでしょう?」
「いいや。聞かせて」
「竜王は確かに竜の女王の子。でも人の姿もする…きっとそれも真の姿です。
人の女がその腹を痛めて竜王を産んだ…と言う説があります」
「うん」
「我等と同じ、人です。私は竜王の母の名前も知っている」
貧乏だから働いてばっかりいて読書する時間は限られていたけれど、この勇者速読の天才。
古い資料を読み漁り、ロト伝説ゆかり物、場所に出掛けては何かを掴んで帰って来る。
竜王の師…いや、竜王の父の名までこの勇者は知っている。
「ラダトームのロトの子孫はラルス王に強い事を余り言えない。先程言われた通り子孫には狂戦士も多いし。
でも俺は「ラルス王が俺も竜王も死ねば良いと思っている」と疑っている訳では無いし、
王室を都合良く信じている訳でもない。
俺がこの旅で信じ、疑う存在はロトと救世主の竜王だけです。
ロトにはいつも謎があります。解いても、解いても、まだ足りない。
仕事に託(かこつ)けて俺は、ロトの事を忘れていた時期があるんです。今はその時期を取り戻したい」
折角竜王がラダトームに来た事があったのに、仕事が忙しいので見に行かなかった事もある。
つまり勇者は竜王を見た事がない。竜王の鋭い眼光、厳しい聖人の雰囲気も見ていない。
勇者より10程年上で、頭一つ小さい男の様だった。(それでも180cmは超えてる)
竜王は気軽に笑顔を見せないが風の様に涼しい、見事な男だったと。
「ロトは女だったと、最近伝え歩いているのはお前なんだな」
仙人は凛と勇者を見詰めて言った。
「ええ。艶めかしい人だったらしいですね」
「フフ、儂は会った事あるぜ。良い女だよ。夏に一度会ったら夏中楽しいぞ。でも、俺の方がモテタけどね。俺の方が色っぽい」
「色っぽさは比べてみないとわかりませんね。ここにロトが居ないと」
「ナマ言って! どうせお前もロト選ぶ口だな!」


男二人は祠の外に出た。
リカントがまだ居て、今度は老人を襲おうとした。


35 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:48:36 ID:DxYCeezC
「こら、仙人様に攻撃するな」
と勇者はサッと前に出て仙人の胸を押し、下がる様に言った。仙人はときめいて下がる。
(俺を守ってくれるのか…いけねえ、親父を思い出す)
勇者の大きな背を見ながら老人は子供に返った。
この勇者、竜王に勝てるだろう。そしてゾーマからロトを奪える唯一の男だろう。老人は千年生きて来たけれど、勇者であり覇王である男を初めて見た。
最高、最強の勇者だ。女勇者だったロトは戦闘力で彼に劣る。
今勇者は手に炎を生み出していた。
(来れば打つぞ)
とリカントを睨むその顔の恐ろしい事。仙人は(この男、女にモテるだろうな)と思っていたが、この睨みを見た時(一体どんな女がこの男の妻になるんだろう)とワクワクした。
リカントは逃げて行った。
「大変な魔力をお持ちだな」
「ロトの石盤を見てから、俺は魔法が良く使える様になりました。ロトが力を貸してくれてるんでしょうか」
「石盤!? 誰が探しても見つからなかったのに」
「すぐ見つかりましたよ」
「お前、ロトに気に入られたな。据え膳だよ。なんかいやらしいなぁ」
勇者は思う。ロトは調べれば調べる程エロティックな側面を見せてくれる。自分だけを選んでくれたのかと思って胸が奮えた。
老人が勇者の目の前で「どうした?」とばかりに手を振る。勇者は我に返った。
「お前は、竜王を斬り付けてはならない男だろうぜ」
「は…」
「ロトが悲しまないかね」
勇者は少し静かになって言う。
「太陽が眩しい…これだけでも竜王と戦う必要は無いと思う時がある」
竜王は太陽も人間も、どちらも消さない。
「苦しい時代から皆を救ってくれた竜王は、最高のバランスを持った最高の救世主。
雨雲の杖まで手に入れた俺はどうせなら会いたいと、ただ思うだけです」

この勇者はロトが女である事を解き、説いて回った。「ロトは女である」事こそが最も有力な説にまで伸し上げた。

36 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:51:59 ID:DxYCeezC
ロトを、勇者としても、女としても復活させ、
彼女の誇りと、色香と、志しを守った。
(この男が最高だろ。お前をこれ程守った男は他に居ない筈だ)
仙人はロトに語り掛けた。ロトがもしこの場に居たら嬉しくてどうにかなりそうであろう。
(人はこうして愛し合う事も出来るのか)
千年生きて来たからこそ、こんな男、こんな男女に会えた。

(1000年前の女もサラッと落としたか。色男)
老人は良い男を前に、さっきからずっとウキウキしていた。
(色っぽいのはお前だよ)
と思いつつ「お前。指が長いな…」と勇者に向ってボソリと言ってしまった。
「ウム、良い髪だ」
と勇者の長い赤毛も褒めた。今日、自分がちょっと大胆で(いやん)と思いながら老人はこの男を称える行為を止められなかった。
そんな性愛の親密を受けて、勇者は狼狽している。
(男に好かれるのは初めてだ。さっき胸を押して良かったんだろうか…)
男にこんな間近でこんな目を向けられるのはこの勇者、これが最初で最後になる。記念となった。
何しろこの勇者の一生は短い。
この勇者は雰囲気のある雄である。
女を抱く為に男と言う性を持っている風格。百戦錬磨のこの老人さえも、いやそんな老人だからこそ、この青年に触れる事が出来なかった。
勇者の髪。
(まるで火の様だ)
戦場の返り血で更に赤く染まる様子も見える様だった。そして男は自らの血で赤く美しく死ぬだろう。
勇者は20代前半だそうだ。
「生まれたのこないだじゃないか」
「貴方は?」
「きゅうひゃく…なんだっけ…」
「貴方は、本当に人間だった? 元から仙人だったんじゃ」
「人間だよ。お前こそ凄い呪文使えるだろ。電撃が混ざったベギラマ出しおって。人間じゃねぇ。儂はトラウマなんだよ雷が」

37 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:57:44 ID:DxYCeezC
この老人が言っていた事は本当なのだろうかと勇者はフと思った。ロトを抱き、ロトに電撃を落とされ、ロトの死目を見られなかった悔しさは今でも忘れていないと言う。
「お体に気を付けて。さよなら」
「さよならとは言うな」
「じゃ、また」
勇者は祠を後にして、その背を又老人に見せてくれた。そしてどんどん遠ざかる。
「成し遂げた時に家族に会える様な旅をしてくれ」
もう小さくなっている勇者は振り向いてくれた。
「若いうちに死ぬな。ロトが泣くぞ」
勇者は仙人の様子から、ロトは若くして亡くなった事を悟った。
「お前はロトに似ている」
女だからこそ世界を救った勇者と、男だからこそ平和をもたらした勇者。
女だから死に拘るゾーマに目を掛けられ彼の心を得て、彼に自分の心も見せた伝説の勇者ロト。
男だからロトとローラと言う女を愛して、その女二人の心を得て、孤独で荒んだ竜王も静めた勇者。
そして若くして死の影のある元気な二人の勇者。
母なる勇者と父性の勇者は、二人共まるで絶望的に温かかった。



老人は本日、二人の勇者に会った様な気がした。今まで食らった事の無い、想像もし得なかった電撃に撃たれた思いだった。

あの勇者は知らないんだろうな…デルコンダルと言う国がある事を。
さあ、仙人の次は俺は何になるのかなぁ。
自分からやめた王の座だったけど…またデルコンダル王になってみるか。
またサーベルタイガーと遊ぼう。
(そうさ!)

38 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:59:19 ID:DxYCeezC
老人は世界樹の葉を握り締め、広野を駆けた。雨雲の杖を持つ勇者はもう遠く、叫んでも聞こえないだろうが老人は声を張った。
「大海に出て南に下れ!俺の国がある!また会おう!」
今度王になった時は、女の子でも好きになろうかな。
ゾーマの様に、自分が「一緒に死にたい」「一緒に一生終えたい」と思う女に俺も会えるのかな。




自国へ向かって歩くデルコンダル王の足に、子犬が纏わりついた。
「おぉ、儂は子犬も好きだよ」
抱かれると雌の子犬はキャンキャン喜んだ。あとはどっちが野生的なのかわからない程に青年王と犬は遊ぶ。
この青年、この仙人の名は
この男の名は





なかなか死なない     END


39 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 13:12:15 ID:Vt4myj6U
読みにくかったけど全部読んだよ。
文体が「俺が勇者だったら〜」の1に似てるな…

40 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/10 12:08:25 ID:sG75A6RF
ageとく

41 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 03:38:30 ID:8BcrtLG9
>39
読み難い中全部読んでくれて、すまないと同時に感謝します。
(その人の作品は見た事ありません)

>40 どうもありがとう


42 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 03:43:47 ID:8BcrtLG9
家族になる 


「ビアンカはどうして父さんの話ばっかりするの?」
お姉さん振りたい筈である…ビアンカはパパスの事が好きだった。
サトチーはこの様に6才にして恋を目撃した。
それはサトチーがビアンカを好きになったとは異なり“ビアンカの恋心”を理解出来た、解ったと言う事である。


青年になったサトチーはぼんやりと思っていた。
やっぱり僕の初恋はビアンカだったのかな…と。
こんな事を思うのは、ヘンリーが結婚したり、回りの人達が「サトチー恋人は? 結婚は?」なんて聞くからである。
(もう。結婚、結婚うるさいのだからなぁ)
モンスターを連れて旅するとんでもない男がサトチーである。
ある日、いかにも荘厳な盾が市場の競りに掛けられていた。
(あれはそんな値段で渡して良いものじゃないよ)
そう思ったサトチーの隣で、
「あれは私が買おうと思うのだ」
肥った商人が笑って言った。それから落札までヒートし、サトチーの隣に居たルドマン商人が盾を手に入れた。
(まるで戦闘の様だった。格好良かった!)
と、サトチーの仲間のモンスターは喜ぶ。
「勇者の盾を探している?…、ハハ、その事は私から言い出そうと思っていたのに。
素晴らしいお仲間をお連れだな。私の為に…腕を貸して欲しい」
モンスターの中のモンスター、ブオーンの事をルドマンは語った。
結婚は、舅選びがまず第一である。
これがサトチーの、もう一人の楽しい父となる。
そして青年サトチーはビアンカと再会するより先にフローラに会ってしまった。これがまず決定的。
出会った瞬間にサトチーとフローラの結婚はなんとなく決まっていた。
サトチーの初恋はビアンカなのか、フローラなのか、結局サトチー自身もわからないまま。


43 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 03:48:51 ID:8BcrtLG9


フローラとの結婚の証し…水のリングを取りに行く時、サトチーは山奥の村でビアンカと10年振りに再会した。
ビアンカはサトチーの旅に同行したが…サトチーはビアンカを馬車から出そうとしない。洞窟に行かせようとしなかった。
「どうして。冒険の旅をするって昔約束したのに」
「昔ね…駄目だよ。ビアンカはこの洞窟を行けない」
力不足だからである。なんと戦力としてはお嬢様のフローラの方がビアンカより上だった。
そんな事より、今はサトチーの状況把握力と決断力が光った。
「ケチ!」
「ビアンカ」
「フン」
「ビアンカ…後で話そう」
ビアンカは馬車から彼の後姿を見送るだけ…。
ビアンカにはサトチーが…目に見える距離よりずっと離れて感じられた。

「話って何なの」
山奥の村、ビアンカの家ビアンカの部屋で、サトチーは彼女に口を開いた。
「僕は…ビアンカの事好きだった」
「え?」
「言って置きたかった。ビアンカは僕の父さんの事好きだったろ?」
「やだ、どうして貴方知ってるの?」
「父さんの事を好きだったビアンカが、僕は好きだった。本当に…あの頃は楽しかった」
「…そうね」
「僕は、フローラと結婚するよビアンカ」
サトチーはビアンカとビアンカの父を自分の家族に出来ないのが心残りだったが、フローラとの関係を前にして吹っ切った。
昔は終って、ビアンカからパパスとサトチーは遠く離れた。

44 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 03:52:47 ID:8BcrtLG9


「ビアンカさんは…サトチーの事を…」
サラボナの夜、ビアンカにそう尋ねたのはルドマンだった。
「いいえ。私は、サトチーとフローラさんの結婚式が見たいわ」
「私に気遣う事はないのだよ。サトチーは楽しい。これからも友人だ。それだけで良い。
サトチーがビアンカさんを選ぶなら二人の結婚式にしても良い」
「サトチーと私は似合いませんわ」
「不似合いと言うならフローラも金に関しては苦労知らずなんだ。サトチーとどうかね?」
「でも悲しみや、人の悲しみ苦しみの解る人だわ。私フローラさんの事はなんだか解る気がするんです」
そして金に困った事のないフローラは、サトチーとデコボコの夫婦で一生楽しそうである。
「私あの二人楽しみなんです、私の楽しみを取らないで欲しいわ」

ルドマンと別れた後、ビアンカはパパスの事を思い出した。そうすると涙が出たのだ。
(おかしい、本当に子供の時の事なのに…)
ビアンカは早熟だった。やっぱりパパスの事が好きである。
パパスに取ってのエルヘブンの人々が、サトチーに取ってはサラボナのアンディだろうか。
弊害を越えて、他人の心を前に自分の心を消さず押し切る結婚。サトチーはパパスに似た行動を取った。
ビアンカはサトチーの事も好きだ。勿論彼と結婚も出来る。実際フローラの存在がなければビアンカとサトチーは結婚して居たろう。
その喪失感も悲しいけれど、パパスとの関係が遠くなった事にビアンカは胸が震えた。

(元気を出せよ…)
ビアンカの部屋で、キラーパンサーのゲレゲレが彼女を慰めてくれる。
「どこ触ってんのよ」
ビアンカは大きな男の狭い額をポコッと小突いた。
(ビアンカは俺のモンだ)
グフンッと鼻息を吹き出し、ゲレゲレはビアンカの机に大きな顎を乗せる。
「あなた何を考えてここに来てんのかしらね…。あっ」
ゲレゲレの量の多い鬣の中に、見覚えのある布地が…。
「あら、これ、私があげたの…? あなたずっと持ったの?」

45 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 04:05:54 ID:8BcrtLG9
ゲレゲレの胸元からスラリんがポンと飛び出した。
「ダディ(サトチー)がもってたのさ」
そのスラリんの言葉に、そうだとばかりにゲレゲレは鼻息を吹いた。
「あら、脈ありだったのかしら」
「そうさ」
とスラリんは跳ねた。そうだとばかりにゲレゲレは鼻息。
「これ、私が持った方が良いわね」
しかしゲレゲレは、そのビアンカのリボンを彼女に返そうとしなかった。
(俺にくれたんだろ。良いじゃないかリボンくらい)
との雰囲気を伝えるゲレゲレだが、
「そんなの持ってて…フローラさんが傷付かないかな」
幼い頃サトチーと一緒に冒険したし、何よりビアンカはパパスの事を知っていた。
パパスが風邪を引けば、それを良く看病した。
一方フローラは夫の父を知らない。夫の子供の頃を知らない。フローラがその事を気にするのは、ビアンカは嫌な気がした。
(お前は俺やサトチーの中から消えたいと言うのか)
ゲレゲレは「ビアンカの存在を失いたくない」自分の思いを知っている。
ビアンカのこだわりは何だろう、強く意識している事は何だろうとキラーパンサーは思った。
パパスを知っている自分自身を相当凄い存在だとビアンカは思っているらしい。
それはつまり。
(死んだ人間を追っ駆けて…)
ビアンカは世紀の、絶世の美女である。偶然にもそんな自分に相応しいパパスを求めている。
これではビアンカは孤独運である。やはり凄まじい美女は不幸だった。
(お前はもっと、器用な奴だと思ってたよ…)
とゲレゲレはビアンカに思う。更に(幸せになれそうな顔もしてるのになぁ…)とも。

46 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 04:09:11 ID:8BcrtLG9



ビアンカはどんどん美しくなって行った。サトチーが石像になっている8年の間にも女振りを上げていく。
しかし美しすぎて、近寄り難い容姿なのが玉に傷。
彼女が結婚しようかと思う男は確かに居る。山奥の村に沢山居る。彼女はもう誰でも良いと思っているかも知れない。
幸せを感じて生きて行けるなら。
そんな時、サトチーに再会した。
「サトチー!」
「ビアンカ!」
26才の筈のサトチーは、容姿が10代後半のままであった。
ビアンカはもう心身共に28才である。
(若いあなたの前で恥かしいわ…)
恥じらうビアンカには哀愁があって、溜息の出る美しさ。
「ビアンカ、綺麗だね。いつも」
サトチーの言葉は優しいけれど、ビアンカを褒めると言うより、目の前にある事実を淡々と伸べたに過ぎない様子だった。
一方ビアンカは、サトチーの逞しい腕に体中がゾクリとした。
彼の肌は浅黒く焼けて、以前再会した時よりずっと男らしくなっていた。
(いやだ、貴方、こんなに小さかったじゃない!)
あの頃の面影はもう…彼の澄んだ瞳にしか残って居ない。
そしてサトチーは今、新たな悲しみに堪えていた。フローラが石像のままで行方知れずだそうだ。
「そう…でも貴方、疲れてちゃ何も出来ないわ。今日はこの家でゆっくり休みなさい」
「ありがとう」
とサトチーはビアンカに微笑んだ。

ビアンカは自分の部屋で鏡を見る。
美しい顔。でも。彼女は顔よりも体に自信があった。
白く形の良い乳房。淡い色の乳首に、滑らかな背中。
この体…あの逞しい腕に、胸に抱かれたい。

47 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 04:12:31 ID:8BcrtLG9
(あぁっ)
とビアンカは自分の机に突っ伏した。
今の自分は、白日の下にマーサを攫ったパパスとも、正々堂々アンディと勝負したサトチーとも訳が違う。
(嫌だ、最悪)
あんな事を考えてしまう自分が…ビアンカは嫌になった。
その時小さな手がビアンカの部屋の扉をノックする。少年少女が彼女の前に現れた。
「ねぇ、ビアンカさんに昔の話して欲しいの」
サトチーの娘のランが元気に言った。
「話?」
聞き返すビアンカは髪を少し乱していて、ゾッとする程美しかった。
少年少女は話を聞きたいと言いながら…本当の所はビアンカの美貌を見たかったからここに来たのだ。
「サンタローズの事とか…」
サトチーの息子のヌットが、8才とは思えない程の低い声で言う。
剣を携えていて凛々しく、最早男の風格のある少年。そして彼こそ勇者だった。
「ヌット王子…」
とビアンカが囁く。
「はい」
とグランバニアの王子が彼女に歩み寄った。
「私、今ね。貴方達のお父さんの友達失格になるくらい…恥かしくて悪い事考えてたのよ」
娘のランは「まぁ」とばかりに驚いており、ヌットは凛とした目をビアンカから反らさなかった。
「その剣の鞘で、私の頭をポンって叩いて欲しいのよ」
「そんな」
そんな事は出来ないとヌット王子は遠慮した。
「格好だけでも良いの。貴方達のお父さんがね、貴方達のお祖父さんにやられていた事なのよ。
悪い事したら叱ってたわ」
椅子に座るビアンカと、立っている勇者ヌットの視線の高さは殆ど同じであった。
勇者はゆっくり鞘をビアンカの頭に落として、微かに触れた。
「懐かしいわ…フフ」
とビアンカは穏やかに笑う。

48 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 04:17:45 ID:8BcrtLG9

この夜、ヌットとランはビアンカの部屋で寝た。大きなベットに三人並んで寝る事が出来た。
ビアンカが熟睡している隣でヌットが囁く。
「ラン、ラン」
「なぁに、お兄ちゃん」
「僕はビアンカさんと結婚する」
「え? 本当?」
「何だか、離れたくない」
「私もそう。婚約なら、今すぐにでも出来るんじゃないかしら」
ビアンカと家族になれると思って、兄妹二人はワクワクしながら眠った。


勇者ヌット15才の時、ビアンカと結婚した。
ビアンカは夫より20才年上だけれど、夫の勇者の方が恥かしくなる位の美女であった。
(ほら、やっぱりビアンカ幸せそうになった!)
とゲレゲレは喜んだが(チイィィ!)と勇者を睨む。
結婚式に出席しているグランバニアの王サトチーは、若くしてそろそろ退位を考え出す。
「さぁ、もうのんびりしちゃうか」
と妻のフローラに言うと彼女も楽しそうに笑った。
ビアンカは良く気が付くし、素早いし、王妃の貫禄はフローラより上である。
「私、ビアンカさんが王妃になって政治をするの楽しみよ」
と楽しそうなフローラを見てサトチーは言う。
「君と結婚して良かった」
「え? なぁに?」
婚礼の式の喧騒に、妻は夫の声を聞き逃した。
これでサトチーはビアンカも、ビアンカの父も家族にする事が出来た。
ビアンカの父は病弱なので、今度は自分が看病する番だとサトチーは思う。
(なぁに? 優雅に引退するわけ?)
とビアンカは、サトチーとフローラが少し羨ましかったが、若い夫と共にハツラツと王室に君臨するだろう。
フローラの物よりもずっと新しいシルクのヴェールを付けた若々しいビアンカの人生は、まだまだこれから輝き出す。

END

49 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 07:59:21 ID:jdgv3wrN
読んだよ、いい話だね。

>>41
作者のことは俺の勘違いだったか、失礼。

50 :ーーーーーーーv−−−−−−−−:04/11/11 08:01:05 ID:hypT4qoY
           ー-"'" ⌒,,ィシヽミミiミミ 、
         /     三彡彡彡ィ`、ミミミ`、
        /      シ彡彡彡彡ノ'ヽミミミ`、
        ,'        ,三彡彡彡彡彡ソ,ー--'
          l    _ _ """'彡彡彡彡彡ノi
       {;、 ';;;='''"""`  彡彡彡 - 、ノノi
          kr) .ィェー   彡彡' r、ヽ}彡i  
        レ'  ..      シ彡' )ァ' /彡'  と、思う吉宗であった。
       {_,,,、 ;、      シ彡 ニンミミ{
        l         '''"::.   彡ミi
         ! ̄"`     ...:::::::: ノ""{
        l    .......:::::::::  /   \_

51 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 15:47:25 ID:8BcrtLG9
>49
どうもありがとう。途中までは暗い話一辺倒だったので不安でした。

>50
目がィェーなのが最高

52 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:08:32 ID:dBkeoppY
今日そして明日


ライアンはバトランドの兵士。ホイミスライムと共に湖の塔にやって来ていた。
「この塔の魔物は強い! こんな事なら古井戸の中にいたホイミンという奴を仲間にしてあげるのだったよ……。
お前が羨ましいよ」
塔の中で会ったバトランドの兵士にライアンはそう言われ、言った兵士は少し眩しそうにした。
ライアンは体力の漲った良い目をしており、纏う鎧にさえ傷一つない美しさだった。

ホイミンを連れたライアンの快進撃。一人で動く戦士に追い付ける物ではない。
戦士ライアンとホイミスライムのホイミンは、更に塔の中を進む。
バトランド、イムルを騒がせていた人攫いの本拠地へ踏み込もうとしたその時。
またバトランドの兵士が居た。先程の兵士とは違う男で、冷たい塔の床に倒れている。
もう死を待つだけの体だった。
「……世界の…どこかで、地獄の帝王が復活しつつあるらしい。しかし、予言では帝王を滅ぼす勇者も育ちつつあると。
この階下に居る者達は…勇者がまだ子供のうちに見つけだし、闇に、葬るつもりなのだろう。
ライアン! 子供たちを守ってくれ……!」
ライアンは彼を看取る。バトランド式の戦場の作法で、その兵士を送った。
「この人…」
ホイミンはか細い声でその屍に執着した。
「ねぇ、この人良い人だったよね。ボク会った事ある。“仲間にしてっ”って言ったら少し考えてくれた」
しかし兵士は
「なんで俺と仲間になりたい?」
とホイミンに尋ねた。その時ホイミンはうろたえてまごまごしてしまった。
「旅の理由も明かさない者と一緒に行動は出来んな」
困った様な笑顔をホイミンに見せると、その兵士は去って行った。
「あ、…あのね。ボク…」
ホイミンは小さな声を出してみたが、遠くに行った兵士にはもう聞こえなかった。

「言えなかったんだ。人間になりたいって。言ったらこの人は仲間にしてくれたかな。この人にボクのホイミを見せたかった」

53 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:11:15 ID:dBkeoppY
ホイミンは屍にフヨフヨと触手を伸ばして彼の腕をさすり出した。涙が出て来た。
「お前一人がそんなに悔いる事はない」
ライアンは独得の低い声で語り掛ける。
「お前は今私と居るじゃないか」
「そうだね」
戦士は鋭い眼差しをホイミンに合せて言った。
「今出来る事を考えろ」
「はい」
あとは戦士二人無言で、跳ねる様に戦場へ駆けて行った。


塔の地下一階。
助けを求める子供達の声を聞くとライアンとホイミンは更に奮い立つ。勇敢な男達だった。
ピサロの手先と、大目玉。いよいよ人攫いの主犯格と対峙すると言う時、ホイミンは囁いた。
「誰にも言った事がなかったんだよ。人間になりたいって。
ボク生まれた時から人間になりたかったの。でも誰にも言わなかった」
ホイミンは体高が3cmくらいの時から人間になりたかった。
なぜなりたいのかもう理由もわからない。ホイミンにとっては当り前の思いだった。
「人間になりたいって言えた相手はライアンさんが初めて。
ボク、他の誰にもこの事言えなかった。だからボクはこの戦い、
貴方に全てを掛けています」
ホイミンの声は、ライアンの背を風の様に押した。
戦闘が始まるとホイミンはライアンから離れて彼を援護する。


勝利し、息を切らしながら助け出してくれる戦士とホイミスライムは子供達の神様だった。
「上の階から飛び降りれば、塔から出られるよ」
救出された子供達の声は誘う。ライアンとホイミンの旅の終わりは派手なダイブとなった。

54 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:14:25 ID:dBkeoppY



「ライアンさんは英雄だ!」
ホイミンははしゃいだけれど、イムルとバトランドの人々の迎え方も負けてはいなかった。
しかしライアンは歓喜と歓声の中でも凛々しく、笑顔は子供達にしか見せなかった。
バトランドでのライアンの迎えられ方はまさに国を挙げてと言った態で、王城は彼の為に宴までしてくれると言う。

ライアンはひとまず家路についた。
「わぁ、ライアンさん家」
ホイミンはライアンの一階建てでウッディな家を気に入っている。
ハンモックに巻き付いて遊んでいたホイミンは、色の重ねが美しい紙に筆を走らせているライアンを見つける。
何を書いているの? と言う風にホイミンは寄って来た。
ライアンは達筆で、モンスターのホイミンがドキリとする優麗な趣きがあった。
「王に宛てて。…だからお前は読んではいけない」
「はい」
ヒョイヒョイと遠ざかるホイミンの後ろ姿を見ながら、ライアンは言った。
「ホイミン、出掛けよう」

ライアンとホイミンは外に出て、王城に向って歩み始める。
途中店に入り、ライアンはホイミンに服を与えた。

王城に入ったのはホイミンだけである。
タキシード姿のホイミスライムは宴の席で愛された。
袖や裾から黄色い触手を覗かせて人々に挨拶している。ワインの入ったグラスも器用に持って見せた。
ライアンはホイミンに簡単な礼儀作法の指導を済ませてある。
「お前は大丈夫」
とライアンに言われたが、王と話す時ホイミンはドキドキした。そしてライアンからの手紙を早速渡す。

55 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:16:09 ID:dBkeoppY
王がその文面を見ると、宴に参加出来ない無礼を侘びた後、こうある。

私よりも楽しい者が、宴に参加しこの拙筆を献上…云々…。
愛らしい姿ですが、私の盟友、私の戦場の切り札です。
どうか、この席ではその者を私の代りと……

ライアンは、王から何かしら拝領出来る事を知っていた。
旅から帰って来てすぐのライアンに王は「土地をやろう」と言った。
しかしライアンは王に「勇者を探す旅にすぐにでも出たい」と言った。
王は「んー。………いや、そうか」と、物足りなそうに口篭もっていた。

王はライアンが欠席しそうな事は感じていた。
彼は一人、死んだ兵士達の事を思っているのかも知れない。盛り上がりたいとは思わないだろう。
可愛い仲間がこの旅の喜びを担当してる化身なのか、一匹だけフヨフヨと来て宴の席は妙に盛り上がった。
このホイミスライムも件の功労者である事は間違いないのだから。


宴が終わり、ライアンの家の前でホイミンは華やいだ別れの挨拶をしている。城の兵士とだろうか。
ホイミンは試しにペシペシとライアンの家の扉を叩いて見た。すると彼は起きていてホイミンを屋内へ招く。
「起きてたんだね」
「あぁ。お疲れ」
ホイミンはピョンと椅子の上に立ち、テーブルに顔を付けた。その顔は溶けそうにドロドロしている。
「何だ酔ってるのか」
「ボクね。酔っ払ったの初めてじゃないんだよ。果物とか腐らせて食べるもの」
「そうか、醗酵しているわけだからな」
えへー。とホイミンは笑っている。
「楽しかったか?」
「うん。あ、これ貰ったの」
とホイミンは横笛をライアンに見せてくれた。

56 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:18:06 ID:dBkeoppY
「ん、私にくれる物とは笛だったのか」
「え? ライアンさんに渡す物だったの?」
「いや…」
「ライアンさんに贈られたのは曲だよ」
曲? とライアンは思い出す。一人で家に居た先刻、城から音楽が流れて来ていた。
「あれは私の曲だったのか」
「そう。戦士はひとり征く」
吹いちゃうよ。とホイミンはたどたどしく曲を聞かせた。
ライアンは一人で飲むくらいはしていたらしく、酔っている。曲を聞きながら更に盃を進めた。
「はぁ」
と感心した後ライアンは拍手した。
「良い曲だよね」
「うん」
と返事した後ライアンは下を向いて黙った。
「ホイミン」
「うん」
「勝ったな」
ライアンは酔っていた。
ホイミンは、ライアンも楽しむゆとりがあったのを見て安心した。
「私とも飲むか」
「うん。エヘヘ」
乾杯はせず、亡者に献杯をする何とも凛々しい酒であるが、彼等の話は続いた。旅の事、洞窟の事、町の事。
たまにライアンは「俺」と言ったりする。ホイミンはちょっと乱暴な口調のライアンも好きだ。
ライアン、飲んでしまって元々色っぽい声が更に生々しくなっている。
風邪を引いたように鼻孔を刺激してから出るライアンの声は、聞いている方の海綿体を刺激する。
この声に、野生的なホイミンは時々冷静を欠いた。初めて会った時などホイミでライアンの声を治そうとしたのだ。
「あれ、風邪引いてるんじゃないの?」
「いいや」
この時ホイミンはちょっと(イヤ…)と思った。これが地声なんてしょっちゅうドキドキしてしまいそうだから嫌だった。

57 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:19:36 ID:dBkeoppY
「ライアンさん、女の人達が騒いでた」
「ん?」
「ライアン様の正装が見れなかったわぁって。僕みたいな格好して二人で来て欲しかったって」
「全く…私は戦士だぞ」
ライアンは女達の戯れに合わせる。
「見たい、ライアンさん」
「?」
「正装して」
「嫌だな」
と言いながら、ライアンは奥の部屋に引っ込んでイソイソと着替え始めた。
「どうだ」
着替えの早い男である。黒いタキシードのライアンがそこに立っていた。
「おわぁー」
と声を上げた後、ホイミンは言葉を発しなかった。感心してしまったのだ、この人は戦士の筈だった。
「俺は痩せたな」
と言ってライアンは椅子に座った。服の胴回りが緩くなっているらしい。
黒い短髪と髭が清潔で何だか貴族の様だった。こんな戦士は面白いからちょっと騒がれそうだ。
「ライアンさん。似合うよ」
「左様か」
「とっても」
ホイミンの感動が、意味深長な物に感じられてライアンは黙った。ホイミンの次の言葉を待った。
「デスピサロとか、騒ぎがなかったら……ライアンさんはきっと、自由に色んな事が出来たよね」
「何を言ってるんだ」
「ライアンさんは色々な事がきっと出来るよ」
「何でお前まで…私は戦士だ。おい。お前だって勇者じゃないのか」
「ええ!?」
「なにも人類を救う勇者が人間じゃなくても良いじゃないか」
やっぱりライアンは変な人だ。普通の大人じゃない。
「ボクは、…なんでそんな事」

58 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:21:16 ID:dBkeoppY
「お前と初めて会った時、何か感じた。おい、お前なのか」
「やぁん」
「お前との旅はもっと、長い物だと私は思った」
「ライアンさん。もう旅が終ったみたいに言わないで」
「…お前は何も感じないのか。お前…勇者でなくて何なんだ」
ホイミンはゾクゾクとしていた。ライアンは謎めいた男だ。そしてこの戦士の謎に迫ると、同時に自分の中の謎にも迫っている様な不思議な感覚を憶えた。
気付くと男二人は眠っていて、朝を迎えていた。

一人身の切なさか、ライアンは料理が上手い。
「なんで料理って男の人が作った方が美味しそうなんだろうね」
「お前、人間と言う物がわかって来てるな」
台所に立つライアンはそれなりの風格を持っていた。芳香と共にサクサクと料理は出来上がる。
しかし盛り付けた皿をテーブルまで運ぶ役目はライアンだと少々ゴツイ。ホイミンの方が適任だった。
「こら、お前は客人なのだから」
「だって」
「ほら、パンも焼いてある」
「やったー!」
ホイミンはしきりにパンを食べたがった事があった。
「お前の欲しがった物を用意したのだから、大人しく座っていなさい」
「ひゃっほう。はーい」

「おいしーい」
「うぅん、焦がした…」
「おこげー」
ホイミンは少しフォークを踊らせてしまいながら美味を喜び、ライアンは焦がした事にちょっと額を掻き、ホイミンはその微かな焦げを突っついて食べた。

「お前、昨日の夜の事を憶えているか?」
「結構ね」
二人は後片付けをしながら会話した。
ライアンはタキシードを着て寝ていた自分にちょっとびっくりしたが、ホイミンはちゃんと憶えていた。ライアンの黒い正装。

59 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:24:14 ID:dBkeoppY
(何だか、鎧姿の時とは違う人みたいだった…。鎧と…どっちの姿が格好良いなんて言えないけど、でも)
「ライアンさんは憶えてるの?」
「大体な」
と言うと、ライアンは台所から出て自室に行った。
ホイミンは居間に戻り、朝日で明るくなったライアンの家の中を妙に改まって見回した。
綺麗過ぎるとホイミンは思った。こんなに殺風景だったかと。
ホイミンが宴に行っている夜の間に、ライアンは旅の支度をしていたらしい。
「ライアンさん、旅に出るの? いつ?」
「今日、今だ」
彼の部屋の中から鼻に掛かった低い声がする。
「昨日旅から帰って、今日行くの? 勇者さんを探しに」
「そうだ」
旅の目的はここで、ライアンとホイミンを別つ。ホイミンは人間になる。ライアンは勇者を探す。
しばしの別れ。
(さよなら、ライアンさん…)
ホイミンは涙を懸命に堪(こら)えた。泣いてはいけない。またきっと会えるのだからと。
(怒られちゃう…ご飯美味しかった…)
ホイミンはバトランドの笛を大事そうに持って、宙に浮きスススッと戦士の家を出た。
だが、玄関近くに座り込む。
ホイミンはクスンクスンとして、顔を上げられなかったけれど涙は零さなかった。
(別れの挨拶するぞ)
しかし彼の勇気は思わぬ発展をもたらした。
日の光の元へ姿を見せたライアンにホイミンは(あっ)と息をのむ。

60 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:25:34 ID:dBkeoppY
ただ普通に、今まで通りに桃色の鎧を着たライアンが立っているだけなのだが、
(何だ、そうかボクは!)
今見ているライアンが一番良いのだ。タキシードを着ている時は(鎧姿より良いの?)と思ったりしたが、結局目に見えている今の彼が一番良いのだ。
勿論思い出の中のライアンも素敵だ。でもこの戦士はどんどん、どんどん凄くなる。
だから離れると又会いたくなって、彼の今後が知りたくなって、
(わーい)
ホイミン今は別れを諦めて、とても楽しい気分でこう言った。
「ライアンさん。もう少しボクと旅してよ」
「そうか」
と戦士は闊達な笑みをホイミスライムに見せた。
「うん! そう!」
「うむ。では参ろうか」


ホイミンとライアンの旅はもう少しだけ続いた。
人間になったホイミンとライアンは会う事はないかも知れないけれど…
大きな世界の流れの中に二人共飛び込むから、どこか荘厳な城の中で知らず知らずに合流するだろう。
そして心の向き、精神も同じ方向を向いて歩いているから、離れていても寂しくない。
しかしホイミスライムは思う。

また会おうねライアンさん。
ライアンさんは会う度いいよ。今度会ったらあなたはもっとかっこ良くなってると思うの。
あなたにまた会えたら──
もっと素敵な事が、すごい事が、ボク達を待っているんだ。



モンスターと心が通じ、それと旅する黒髪の男。
それは遠い未来かも知れないが、そんな男が勇者の父や祖父になるような未来がきっと訪れる。
ライアンもきっと、(そいつの特徴殆ど私ではないか)と思いながらも、そんなホイミンの予感を喜んでくれるだろう。

END

61 :名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/14 03:31:31 ID:yxs3ZJ2L
改名たん、乙。
まだ全部読みきってないけど、まってましたよー!
おもろい。

62 :Kの中の人:04/11/15 18:47:03 ID:o0yMcBpC
改名さん、相変わらずいいですね。
続きが凄く楽しみです。

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